2006年 07月 14日
脳は豆腐。
突然何を言い出すか、と思った人がいるかも知れません。なんとなく、良い例えが浮かんだから、書いてみました。
豆腐って必ず水に入れて売られている。今はスーパーでパックに入って売られている。が、豆腐屋で買う時にはビニール袋に水を入れて、袋を閉じる。もっと前なら確か鍋を持っていって、水を入れて、豆腐を浮かばせて家まで持っていった。
いずれにしても、容器と水が無ければ豆腐は崩れる。このような、水を入れるビニール袋が「くも膜」。硬い鍋が、「頭蓋骨」。もちろん、豆腐が「脳」。水は「髄液」
つまり、脳は髄液に浮かんで、髄液を入れる袋であるくも膜に包まれ、さらに硬い頭蓋骨に包まれて保護されている。
実際にはさらに、頭蓋骨とくも膜の間に硬膜という、名前の通り「硬い膜」で包まれている。
さらに言えば、脳自体は軟膜という膜で包まれている。これは豆腐をサランラップで包んでいるようなもの。軟膜も、その名の通り、「軟らかい膜」。
これが脳です。
脳外科で一番大事なことは、脳ヘルニアを起こさせないこと。そう教えられた。これがどのような状態かというと、先に述べたビニール袋を搾った状態。パンパンに膨れたビニール袋に力を入れると、内圧が上がる。それに穴を空けると、水と一緒に豆腐も出る。このように、脳が袋から出た状態が脳ヘルニア。
この内圧が上がった状態を頭蓋内圧亢進症という。脳出血では血腫ができて、それに加えて出血部分が腫れる(脳浮腫)。そのため、頭蓋内で脳が圧迫される。脳は居場所が無くなって、頭蓋骨の外に出ようとする。それで、ヘルニアになる。
脳ヘルニアがなぜ恐いか。脳実質が頭蓋骨内から出ようとして(嵌頓)、その出口にある「脳幹」が圧迫される*。脳幹は生命維持に不可欠な臓器。だから、脳死=脳幹の死。今では脳死は人の死となった。
それだけ大切な「脳幹」が圧迫されると、命に関わる。
それで、脳ヘルニアは、恐い。
頭蓋内圧を上げるのは血腫に限らない。脳腫瘍でも腫瘍の分だけ体積が増すから、頭蓋内圧が上がる。
さらに、「髄液」は循環しているため、その循環障害では、髄液が溜まってしまう。これが、水頭症。
もう1つ、「なるほど」と思ったことがあった。
「脳が他の臓器と異なる事は何か?」と聞かれた。答えは、表面に大きな動脈があること。その動脈の枝が脳の内側に入り込んで、脳に栄養を送る。考えてみたら、他にこのような臓器は思いつかない。一つ挙げるなら心臓くらい(省略)。
この、大血管の分岐部に、動脈瘤ができる。この動脈瘤が破れると、周りは髄液だから、髄液に血液が混じる。これが、くも膜下出血。最も急性に発症し、命に関わる疾患で、出血による頭蓋内圧亢進症を引き起こす。加えて、脳血管攣縮を合併して、脳が虚血状態に陥る。
この脳表面の主要血管が詰まると、その先の脳組織が虚血状態(血液が届かなくなる)になる。その原因は脳塞栓あるいは、脳血栓。神経細胞が生きていられる時間は約5分。虚血部位の脳機能障害が後遺症として残る。
私が大好きな先生が、熱弁したことは「脳が閉じた空間にあること」と「脳の表面に主幹動脈」があること。この2つが脳の疾患を理解する上で最も基本となること。
本で読むと、難しい。この2点だけで、主な疾患あるいは病態が説明できる。
これ以外の疾患は、「機能的脳神経外科」や「神経内科」の領域。
本当に理解している人は説明も簡単で解り易い。さすが、先生達、職人ですね。
下に脳の概観などの画像をアップします。興味のある方はご覧下さい。
*小脳扁桃ヘルニア。テント下圧が高くなり、小脳下部(小脳扁桃)が大孔内に嵌頓する。
脳循環液(CSF)の流れが閉塞され急激に水頭症を来たし、呼吸麻痺などの延髄圧迫症状を起こす。
脳ヘルニアは他に、テント切痕ヘルニア(鈎ヘルニア)、大脳鎌下ヘルニア(帯状回ヘルニア)、蝶形骨縁ヘルニアなどがある。
脳の概観、動脈分布
突然何を言い出すか、と思った人がいるかも知れません。なんとなく、良い例えが浮かんだから、書いてみました。
豆腐って必ず水に入れて売られている。今はスーパーでパックに入って売られている。が、豆腐屋で買う時にはビニール袋に水を入れて、袋を閉じる。もっと前なら確か鍋を持っていって、水を入れて、豆腐を浮かばせて家まで持っていった。
いずれにしても、容器と水が無ければ豆腐は崩れる。このような、水を入れるビニール袋が「くも膜」。硬い鍋が、「頭蓋骨」。もちろん、豆腐が「脳」。水は「髄液」
つまり、脳は髄液に浮かんで、髄液を入れる袋であるくも膜に包まれ、さらに硬い頭蓋骨に包まれて保護されている。
実際にはさらに、頭蓋骨とくも膜の間に硬膜という、名前の通り「硬い膜」で包まれている。
さらに言えば、脳自体は軟膜という膜で包まれている。これは豆腐をサランラップで包んでいるようなもの。軟膜も、その名の通り、「軟らかい膜」。
これが脳です。
脳外科で一番大事なことは、脳ヘルニアを起こさせないこと。そう教えられた。これがどのような状態かというと、先に述べたビニール袋を搾った状態。パンパンに膨れたビニール袋に力を入れると、内圧が上がる。それに穴を空けると、水と一緒に豆腐も出る。このように、脳が袋から出た状態が脳ヘルニア。
この内圧が上がった状態を頭蓋内圧亢進症という。脳出血では血腫ができて、それに加えて出血部分が腫れる(脳浮腫)。そのため、頭蓋内で脳が圧迫される。脳は居場所が無くなって、頭蓋骨の外に出ようとする。それで、ヘルニアになる。
脳ヘルニアがなぜ恐いか。脳実質が頭蓋骨内から出ようとして(嵌頓)、その出口にある「脳幹」が圧迫される*。脳幹は生命維持に不可欠な臓器。だから、脳死=脳幹の死。今では脳死は人の死となった。
それだけ大切な「脳幹」が圧迫されると、命に関わる。
それで、脳ヘルニアは、恐い。
頭蓋内圧を上げるのは血腫に限らない。脳腫瘍でも腫瘍の分だけ体積が増すから、頭蓋内圧が上がる。
さらに、「髄液」は循環しているため、その循環障害では、髄液が溜まってしまう。これが、水頭症。
もう1つ、「なるほど」と思ったことがあった。
「脳が他の臓器と異なる事は何か?」と聞かれた。答えは、表面に大きな動脈があること。その動脈の枝が脳の内側に入り込んで、脳に栄養を送る。考えてみたら、他にこのような臓器は思いつかない。一つ挙げるなら心臓くらい(省略)。
この、大血管の分岐部に、動脈瘤ができる。この動脈瘤が破れると、周りは髄液だから、髄液に血液が混じる。これが、くも膜下出血。最も急性に発症し、命に関わる疾患で、出血による頭蓋内圧亢進症を引き起こす。加えて、脳血管攣縮を合併して、脳が虚血状態に陥る。
この脳表面の主要血管が詰まると、その先の脳組織が虚血状態(血液が届かなくなる)になる。その原因は脳塞栓あるいは、脳血栓。神経細胞が生きていられる時間は約5分。虚血部位の脳機能障害が後遺症として残る。
私が大好きな先生が、熱弁したことは「脳が閉じた空間にあること」と「脳の表面に主幹動脈」があること。この2つが脳の疾患を理解する上で最も基本となること。
本で読むと、難しい。この2点だけで、主な疾患あるいは病態が説明できる。
これ以外の疾患は、「機能的脳神経外科」や「神経内科」の領域。
本当に理解している人は説明も簡単で解り易い。さすが、先生達、職人ですね。
下に脳の概観などの画像をアップします。興味のある方はご覧下さい。
*小脳扁桃ヘルニア。テント下圧が高くなり、小脳下部(小脳扁桃)が大孔内に嵌頓する。
脳循環液(CSF)の流れが閉塞され急激に水頭症を来たし、呼吸麻痺などの延髄圧迫症状を起こす。
脳ヘルニアは他に、テント切痕ヘルニア(鈎ヘルニア)、大脳鎌下ヘルニア(帯状回ヘルニア)、蝶形骨縁ヘルニアなどがある。
脳の概観、動脈分布
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by heba_nonbo
| 2006-07-14 21:08
| 脳神経外科