2006年 06月 04日
脳動静脈奇形
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脳動静脈奇形が脳神経外科の講義でちょくちょく顔を出すようになってきました。
自分の復習の意味も込めてまとめてみます。興味のある方、頑張って読んでください。また、間違いがあったらご指摘お願いします。参考にしたのは私の大学の講義プリントです。
さらに詳しく知りたい人は下記リンクを参照ください
脳動静脈奇形(Arteriovenous malformation;AVM.)は、脳血管奇形の一つで、動脈と静脈成分を含む。異常血管間に脳組織が存在する。
AVMは、栄養血管 feeding artery と ナイダス nidus* (ナイダス;異常血管網)、導出静脈 draining vein から構成される先天奇形であり、ナイダスの AV shunt* が疾患の本態。
*nidus;ラテン語で「巣」の意味。脳血管撮影(造影検査、アンギオとか呼ぶ)では血管がトグロを巻いたようにみえる。
*AV shunt;動静脈シャント(毛細血管網を通らず,直接に動脈から静脈へ血液を流す)。
症候としては、脳内出血、 痙攣発作、盗血現象による進行性神経障害(麻痺とか)、その他に乳児では心不全があげられる。
脳内出血の出血率は年2-4%。盗血現象とは、毛細血管により抹消抵抗が強い正常脳組織への還流を避け、抵抗の少ない動静脈奇形部に多くの血液が流れ込む事。
私は脳(実質)内出血、痙攣発作の治療を受けました。
<治療>
難しいことは以下に載せました。
厚生科学研究班偏.ガイドライン
(注)グレードA~Dは脳卒中治療ガイドラインによる推奨グレード、Ⅰ~Ⅳはevidence level
脳動静脈奇形
【推奨】
1. 脳動静脈奇形からの脳出血例は再出血が多いので、特に再発の危険の高い場合(出血、深部静脈への流出)は、外科的治療を考慮する(グレードB)。
2. Spetzler-Martin分類(表1)のgrade1および2では外科的切除が勧められる(グレードC1)。 Spetzler-Martin分類 grade3では外科的手術または塞栓術後外科的手術の併用が勧められる(グレードC1)。 Spetzler-Martin分類grade4および5では、出血例、動脈瘤合併例、症状が進行性に悪化する例以外は保存療法が勧められる(グレードC1)。
3. 病巣部位や流入血管の状況により、外科的手術の危険が高い、病巣が小さい場合(10mL以下または最大径3cm以下)は定位放射線治療が勧められる(グレードC1)。
4. 痙攣をともなった脳動静脈奇形では、外科的摘出術に加えて、てんかん焦点切除が勧められる(グレードC1)
表1 脳動静脈奇形に関するSpetzler-Martin分類(1986)
大きさ
小(<3cm) 1
中(3~6cm) 2
大(>6cm) 3
周囲脳の機能的重要性
重要でない(non-eloquent) 0
重要である(eloquent) 1
導出静脈の型
表在性のみ 0
深在性 1
大きさ、周囲脳の機能的重要性、導出静脈の型の点数の合計点数をgradeとする。
重症度(grade)=(大きさ)+(機能的重要性)+(導出静脈の型)
=(1、2、3)+(0、1)+(0、1)
【エビデンス】
1.自然歴
脳動静脈奇形の自然発生は12.4人/100万人/年で、うち58%は出血発症であった1)(IIb)。 脳動静脈奇形の未出血例の年間出血率は1.7~2.2%に対し2,3)(III)、出血例では最初の1年は6~17.8%、その後20年間は2%であった3)(III)4)(IIb)。 Spetzler-Martin分類のgrade4、5の出血率は、1.1%と低い(全脳動静脈奇形の年間出血率:2~4%)5)(III)。 出血した場合の死亡率は29%、重症後遺症は27%であった2)(III)。 出血発症した脳動静脈奇形のうち、30%はくも膜下出血、23%は実質内出血、16%は脳室内出血で、47%は神経学的後遺症がなく、37%は自立した生活をおくり、13%は中等度の後遺症で、脳動静脈奇形からの出血は後遺症が少ない6)(IIb)。 脳動静脈奇形は自然閉塞する頻度は1.3%と少ない7)(III)。
2.出血の危険因子
出血の危険因子として、出血の既往、男性、深部静脈への流出4)(IIb)、脳深部局在8)(III)9)(IIb)、穿通枝領域8)(III)、流出静脈狭窄10)(III)などが報告されている。 出血の少ない因子としては二つ以上の主幹動脈境界部の局在がある11)(IIb)。
3.動脈瘤の合併例
脳動脈瘤を伴った脳動静脈奇形は出血発症が多い8)(III)9)(IIb)。 近位部動脈瘤は定位放射線治療後の出血の危険を4~5倍高くするので、定位放射線治療前に処置すべきという報告12)(III)と、ナイダス内動脈瘤は出血の危険因子となるが、流入動脈近位部動脈瘤は出血の危険が少なく、ナイダス閉塞により自然消滅を30%に認めたとする報告13)(III)がある。
4.外科的切除術
外科的切除術による神経学的後遺症発生率はSpetzler-Martin分類のgrade1で0%、grade2で5%、grade3で16~21.9%、grade4で21.9~27%、grade5で16.7~31%、死亡率は0~3%とする報告が多く、gradeの高いもの、機能的に重要な部位にあるもの、女性、大きい脳動静脈奇形、深部静脈への流出などで術後の障害や合併症が多い14,15,16)(III)。 機能的に重要な部位や脳深部局在例、Spetzler-Martin分類のgrade4ないし5の症例でも、出血例や症状悪化例には手術が勧められると報告されている17,18)(III)。 Spetzler-Martin分類のgrade4、5の動脈瘤合併例では動脈瘤のみ手術する5)(III)。 出血急性期の血腫除去および脳動静脈奇形の外科的切除術は手術成績が良好であり、Glasgow Coma Scale(GCS)5以下ないし、画像上脳ヘルニアの危険の高い重症例でも出血急性期の積極的手術が勧められる19)(III)。 術後脳動静脈奇形残存群と未治療群では、年間出血率に差はないとする報告20)(III)と、部分的治療を行った場合は未治療にくらべて成績不良という報告がある5,21)(III)。
5.塞栓術
脳動静脈奇形の完全消失率は、手術単独群82%、塞栓術単独群6%、定位放射線治療単独群83%、塞栓術+手術群100%、塞栓術+定位放射線治療群90%であった。 塞栓術は消失率を向上させるが、死亡率3%は塞栓術に多い22)(III)。 大きなあるいはSpetzler-Martin分類gradeの高い脳動静脈奇形において、塞栓術は手術時間を短縮、出血量を軽減、手術合併症を減少、神経学的長期予後を改善した23) (III)。手術1週間後の神経学的脱落症候が無かった例は、塞栓術併用群では70%、手術単独では41%で(p<0.05)であった24)(IIb)。
6.定位放射線治療
定位放射線治療での完全閉塞率は65~84%25,26,27)(III)、治療後閉塞までの年間出血率は1.8~6.0%で治療前と有意差はない25,27,28)(III)。 定位放射線治療成績は、脳動静脈奇形の容積が小さいほど完全閉塞率が高く、4mL以下では85%、3mL以下で80%という報告がある12,26)(III)。 定位放射線治療後の副作用として、遅発性放射線障害が2.5~22%に25,26)(III)、遅発性嚢胞形成が5年以上経過観察した例の23%に認められた29)(III)。
塞栓術併用での完全閉塞率は65%であったが、塞栓術後に直径が2cm以下となった例に限ると79%であった。 塞栓術による死亡率は1.6%、神経学的欠損症候は12.8%、塞栓部位の再開通は11.8%であった30)(III)。 頭痛改善率は75.5%、てんかん発作改善率は69.4%、神経症候改善率は56.7%であった25)(III)。
7.てんかん
痙攣を伴う27例の外科手術後の痙攣コントロールは良好であった31)(III)が、てんかん焦点切除を追加すると更に良好となるので、焦点切除の追加が有効で、特に30歳以上および痙攣発症1年以内の手術施行例は成績良好であった32)(III)とされる。
自分の復習の意味も込めてまとめてみます。興味のある方、頑張って読んでください。また、間違いがあったらご指摘お願いします。参考にしたのは私の大学の講義プリントです。
さらに詳しく知りたい人は下記リンクを参照ください
脳動静脈奇形(Arteriovenous malformation;AVM.)は、脳血管奇形の一つで、動脈と静脈成分を含む。異常血管間に脳組織が存在する。
AVMは、栄養血管 feeding artery と ナイダス nidus* (ナイダス;異常血管網)、導出静脈 draining vein から構成される先天奇形であり、ナイダスの AV shunt* が疾患の本態。
*nidus;ラテン語で「巣」の意味。脳血管撮影(造影検査、アンギオとか呼ぶ)では血管がトグロを巻いたようにみえる。
*AV shunt;動静脈シャント(毛細血管網を通らず,直接に動脈から静脈へ血液を流す)。
症候としては、脳内出血、 痙攣発作、盗血現象による進行性神経障害(麻痺とか)、その他に乳児では心不全があげられる。
脳内出血の出血率は年2-4%。盗血現象とは、毛細血管により抹消抵抗が強い正常脳組織への還流を避け、抵抗の少ない動静脈奇形部に多くの血液が流れ込む事。
私は脳(実質)内出血、痙攣発作の治療を受けました。
<治療>
- 自然経過
出血率は年間2%程度。死亡率は動脈瘤より低い。大きさ、局在(どこにあるか)、年齢、神経症状、出血の有無から手術適応を判断する。
痙攣発作のみの場合には、抗痙攣剤投与のもと経過観察する事もある。
- 治療
①手術;外科的摘出は最も確実な再出血予防である。全摘出しないと再出血予防にはならない。機能的に重要な部位での手術侵襲が問題である。
②塞栓術;血管内手術手技により、超選択的にカテーテルをnidus近傍まで誘導して行う。手術前段階の治療。
③定位放射線治療;一回大量照射(radiosurgery)により血管内皮細胞を変性させることで閉塞させる (つまり、血管を焼く) 。
深部の小型のものには有効であるが、治療後に完全閉塞まで約2年を要し、この間の出血の危険性は非治療AVMに同じ。
難しいことは以下に載せました。
厚生科学研究班偏.ガイドライン
(注)グレードA~Dは脳卒中治療ガイドラインによる推奨グレード、Ⅰ~Ⅳはevidence level
脳動静脈奇形
【推奨】
1. 脳動静脈奇形からの脳出血例は再出血が多いので、特に再発の危険の高い場合(出血、深部静脈への流出)は、外科的治療を考慮する(グレードB)。
2. Spetzler-Martin分類(表1)のgrade1および2では外科的切除が勧められる(グレードC1)。 Spetzler-Martin分類 grade3では外科的手術または塞栓術後外科的手術の併用が勧められる(グレードC1)。 Spetzler-Martin分類grade4および5では、出血例、動脈瘤合併例、症状が進行性に悪化する例以外は保存療法が勧められる(グレードC1)。
3. 病巣部位や流入血管の状況により、外科的手術の危険が高い、病巣が小さい場合(10mL以下または最大径3cm以下)は定位放射線治療が勧められる(グレードC1)。
4. 痙攣をともなった脳動静脈奇形では、外科的摘出術に加えて、てんかん焦点切除が勧められる(グレードC1)
表1 脳動静脈奇形に関するSpetzler-Martin分類(1986)
大きさ
小(<3cm) 1
中(3~6cm) 2
大(>6cm) 3
周囲脳の機能的重要性
重要でない(non-eloquent) 0
重要である(eloquent) 1
導出静脈の型
表在性のみ 0
深在性 1
大きさ、周囲脳の機能的重要性、導出静脈の型の点数の合計点数をgradeとする。
重症度(grade)=(大きさ)+(機能的重要性)+(導出静脈の型)
=(1、2、3)+(0、1)+(0、1)
【エビデンス】
1.自然歴
脳動静脈奇形の自然発生は12.4人/100万人/年で、うち58%は出血発症であった1)(IIb)。 脳動静脈奇形の未出血例の年間出血率は1.7~2.2%に対し2,3)(III)、出血例では最初の1年は6~17.8%、その後20年間は2%であった3)(III)4)(IIb)。 Spetzler-Martin分類のgrade4、5の出血率は、1.1%と低い(全脳動静脈奇形の年間出血率:2~4%)5)(III)。 出血した場合の死亡率は29%、重症後遺症は27%であった2)(III)。 出血発症した脳動静脈奇形のうち、30%はくも膜下出血、23%は実質内出血、16%は脳室内出血で、47%は神経学的後遺症がなく、37%は自立した生活をおくり、13%は中等度の後遺症で、脳動静脈奇形からの出血は後遺症が少ない6)(IIb)。 脳動静脈奇形は自然閉塞する頻度は1.3%と少ない7)(III)。
2.出血の危険因子
出血の危険因子として、出血の既往、男性、深部静脈への流出4)(IIb)、脳深部局在8)(III)9)(IIb)、穿通枝領域8)(III)、流出静脈狭窄10)(III)などが報告されている。 出血の少ない因子としては二つ以上の主幹動脈境界部の局在がある11)(IIb)。
3.動脈瘤の合併例
脳動脈瘤を伴った脳動静脈奇形は出血発症が多い8)(III)9)(IIb)。 近位部動脈瘤は定位放射線治療後の出血の危険を4~5倍高くするので、定位放射線治療前に処置すべきという報告12)(III)と、ナイダス内動脈瘤は出血の危険因子となるが、流入動脈近位部動脈瘤は出血の危険が少なく、ナイダス閉塞により自然消滅を30%に認めたとする報告13)(III)がある。
4.外科的切除術
外科的切除術による神経学的後遺症発生率はSpetzler-Martin分類のgrade1で0%、grade2で5%、grade3で16~21.9%、grade4で21.9~27%、grade5で16.7~31%、死亡率は0~3%とする報告が多く、gradeの高いもの、機能的に重要な部位にあるもの、女性、大きい脳動静脈奇形、深部静脈への流出などで術後の障害や合併症が多い14,15,16)(III)。 機能的に重要な部位や脳深部局在例、Spetzler-Martin分類のgrade4ないし5の症例でも、出血例や症状悪化例には手術が勧められると報告されている17,18)(III)。 Spetzler-Martin分類のgrade4、5の動脈瘤合併例では動脈瘤のみ手術する5)(III)。 出血急性期の血腫除去および脳動静脈奇形の外科的切除術は手術成績が良好であり、Glasgow Coma Scale(GCS)5以下ないし、画像上脳ヘルニアの危険の高い重症例でも出血急性期の積極的手術が勧められる19)(III)。 術後脳動静脈奇形残存群と未治療群では、年間出血率に差はないとする報告20)(III)と、部分的治療を行った場合は未治療にくらべて成績不良という報告がある5,21)(III)。
5.塞栓術
脳動静脈奇形の完全消失率は、手術単独群82%、塞栓術単独群6%、定位放射線治療単独群83%、塞栓術+手術群100%、塞栓術+定位放射線治療群90%であった。 塞栓術は消失率を向上させるが、死亡率3%は塞栓術に多い22)(III)。 大きなあるいはSpetzler-Martin分類gradeの高い脳動静脈奇形において、塞栓術は手術時間を短縮、出血量を軽減、手術合併症を減少、神経学的長期予後を改善した23) (III)。手術1週間後の神経学的脱落症候が無かった例は、塞栓術併用群では70%、手術単独では41%で(p<0.05)であった24)(IIb)。
6.定位放射線治療
定位放射線治療での完全閉塞率は65~84%25,26,27)(III)、治療後閉塞までの年間出血率は1.8~6.0%で治療前と有意差はない25,27,28)(III)。 定位放射線治療成績は、脳動静脈奇形の容積が小さいほど完全閉塞率が高く、4mL以下では85%、3mL以下で80%という報告がある12,26)(III)。 定位放射線治療後の副作用として、遅発性放射線障害が2.5~22%に25,26)(III)、遅発性嚢胞形成が5年以上経過観察した例の23%に認められた29)(III)。
塞栓術併用での完全閉塞率は65%であったが、塞栓術後に直径が2cm以下となった例に限ると79%であった。 塞栓術による死亡率は1.6%、神経学的欠損症候は12.8%、塞栓部位の再開通は11.8%であった30)(III)。 頭痛改善率は75.5%、てんかん発作改善率は69.4%、神経症候改善率は56.7%であった25)(III)。
7.てんかん
痙攣を伴う27例の外科手術後の痙攣コントロールは良好であった31)(III)が、てんかん焦点切除を追加すると更に良好となるので、焦点切除の追加が有効で、特に30歳以上および痙攣発症1年以内の手術施行例は成績良好であった32)(III)とされる。
by heba_nonbo
| 2006-06-04 23:59
| 脳神経外科